とある日常 4
1月。皆様が幸せになれる話題をお届けしたい“月”。しかしここは何の変哲もない「とある人物」の「ただの日常」をお届けする場所・・・。
こんなずぼらで大人失格な私でも、過去に女性とお付き合いさせていただいたことがある。
当時二人の間ではクロスワードパズルが流行っていた。きっかけは、「彼女の日常生活におけるボキャブラリーが若干足りない」と感じていたからであった。
このように書くと「私はとても言葉を知っているできる人間」とでも言っているようだが、全くそうではない。
「“NumLockキー”と“Insertキー”なんて無くなればいいのに。よく押し間違えるし。もしくは場所変えてくれよ。」などと、自己中心的な考えしかできない小さな男であるのだ。
「楽しめるし知識が付くし、もしかしたら景品も当たるかもしれない」そんな一石何鳥にもなりそうなパズル雑誌を提案し、購入し、没頭し、数か月程経った頃のことである。
『クロスワードパズルの答えが出ないから、ちょっと見てほしい』と彼女から頼まれた。
ご存知の方は多いと思うが、クロスワードパズルの「最終的な解答」というのは、「パズル内の指定されたマス」について各“問い”を解くことで埋め、それを指定通りに並べ替えてできた文字が、通常における「最終的な解答」となる。
つまり、すべてのマスを埋めるべく全ての“問い”を解かなくとも、指定されたマスを埋める事を最優先し、その空白が含まれる“問い”を解くこと事で、「最終的な解答」を導くためにかかる時間はとても短くなる。
邪道と言えばそうなのかもしれないが、おそらくほとんどの方々はそのような方法で行っているのであろう。
彼女もそのようなやり方をしていたのだが、男らしい性格なのか、一つの“問い”に対する答えを決して確かめることは無かった。(自信のない解答について、普通は念のために他の“問い”を答えて正しいのかどうか確認をするのだが)
さて話を戻そう。そのとき彼女から頼まれたクロスワードパズルの問いの1つに、次のようなものがあった。
「女性が襲われたときに身を防ぐ術は〇〇〇術である」
もちろん『ゴシン(護身)』術が問いに対する解答である。しかしながら空白には次の文字が埋められていた。
『フクワ』
・・・フクワ?・・・腹話?・・・腹話術かよっ!!
つまり、彼女の頭の中では、
「女性が襲われたときに身を防ぐ術は“腹話術”である」
という文章が成立しており、確認をしていない痕跡を見ると、何の疑いも無くその解答にたどり着いた事になる。
・・・面白い。実に面白い。突っ込みどころ満載である。
①つまり彼女は、常にカバンに人形を忍ばせて持ち歩くのか?
②危険を察したとき、とっさに人形のボブ君(なんとなく)を取り出して操り始めるのか?
③たしかに襲った相手としては、襲われた人間が突然ボブ君を取り出し、腹話術を始めたら多少はひるむかもしれないが、それが狙いなのか?
④「腹話術」という解答について、それが正しいのか確かめてもいない様だが、よっぽど自信があったのか?
⑤まさかとは思うが、私は彼女に試されているのか?
①~④について大笑いしながら彼女に聞いてみる。
『あたしの“腹話術”は“相手を操る腹話術”で、%#&!!・・・』
あれだ、間違えなく試されているわけではなかった。どうやら私が今まで認識していた腹話術とは異なったようだ・・・というか逆切れだ。本気の間違いだったのだ。この場面ではいっさい笑って指摘してはいけないのだ。
ここで、「”相手を操る腹話術”ってなんだよ!!」などと冷静に返しても、火に油を注ぐだけである。もうこうなるとどうしようもない・・・
「ごめんなさいごめんなさい」と男は平謝りにあやまるだけなのである。
その後、『笑いたいときに笑えない環境に耐えられなかった』ことが原因で、二人が別れてしまったのかどうかは定かではない。