とある日常 12

(あれ?この感覚・・・数分前にも味わっているよ???)

つい最近、数分前に歯を磨いていたことを、「歯を磨きながら」思い出した日があったが、皆様はいかがお過ごしだろうか。

更につい先日、ガソリンスタンドにて「ハイオク満タンで!」を「ハイボール満タンで!」と元気よく意味不明なことを店員に口走ってしまった、脳みその蛆(うじ)の湧き方がいよいよ半端ではなくなってきているL室長である。

 

この「L室長」を毎月楽しみにされている奇特な方はそうそういないと思われるが、数ヶ月前、普段非常にお世話になっている某会社の某部長から、

「おもしろいから毎週書けばいいじゃない」

などと、身勝手なことをまたまたジャーニーさん的なノリで言われていたので、この場を借りて返答しようと思う。

 

・・・無理です。

 

今回で12回目を迎えちょうどひと回り終えることとなるが、今後も1ヶ月に1回のペースで更新していく予定なので、温かい目で見守っていただければ幸いである。

そして今回、2日ほど更新が遅れたこともついでに温かい目で見守っていただければ幸いである。

 

 

さて夏真っ盛りのこの時期(9月にもなるが、沖縄は暑いので私の中では真っ盛りである)、涼しい話を皆様が欲していると思われるので、私が過去に体験したちょっと怖い話を今回はお届けしよう。

 

日も変わった平日の午前1時頃、携帯電話が鳴った。私は珍しく就寝中であり、

(このような非常識な時間に電話をかけてくる人間は誰だ?)

と不審に思いながらも緊急の電話の可能性も捨てきれないので、うるさく鳴る携帯電話を手元に引き寄せた。

電話番号は知人男性○○のものである。「何だろう?」と訝(いぶか)しげに電話に出ると、相手は聞き覚えの無い女性の声であった。

 

「すみません、すみません、夜分遅くにすみません、L室長のお電話でしょうか?わたし○○の妻でございます。先ほどから主人の様子がおかしく、『L室長、L室長に連絡して』とうわごとのようにしゃべっているので、失礼かとは思いますが主人の携帯から電話番号を探してかけさせていただきました・・・」

 

(???・・・こんな時間に電話をしてくるのだから、ただの○○の寝言では無い様だけど・・・)

「えーと、、、ちょっと状況がいまいち飲み込めないのですが、具体的に何がどのように様子がおかしいんですか?」

 

「あのー・・・主人が先ほどから『子供部屋は悪い霊が居て危いから子供たちをリビングに集めて寝かせている』とか、ハンガーに掛けているスーツを指差して、『あのスーツに悪霊が乗り移るから捨てろ』とか、リビングから続く廊下に向かって、何かを指差しながらぶつぶつ意味不明なことを話し出しているんです・・・目つきも普段とは違うし・・・ええ、もちろん不審者がいるというわけではないのですが・・・お酒?飲んでいるようですが残っている酒量からすると、いつもの晩酌程度くらいみたいです。私も先ほど女子会から帰宅したばかりなので・・・いえ私は今日お酒を飲んではいませんが・・・実は以前も今回と同じように、日中主人が取り乱すようなことがあって、私が仕事中だったので、子供が救急車を呼んで病院へ連れて行ったことがあったのですが・・・確かに、主人には霊感のようなものはあるみたいです。結局そのときも一時的な発作のような形で詳しく原因はわからなかったみたいですが・・・いえいえ、特に暴力的な態度になるとか子供に危害を与えるとか、そのようなことは無かったようですが・・・今ですか?リビングで子供たちと一緒にうつろうつろしている感じです・・・L室長の名前を連呼するものですから・・・私も先程からいやな雰囲気を感じていて・・・それで一体どうすれば良いのでしょうか?」

 

(つまり、『霊的なものが家の中に存在しているようであり、奥様も恐怖を感じつつもどうすればよいか分からないところ、私の名前を呼んでいるので俺に助けを求めて電話をした』、、、ということだな。。。)

 

(・・・いや、俺エキソシストじゃねーから!!何も特殊能力持ってねーから!!)

 

私はもともと怖い話は大丈夫なほうであり、心霊現象というのも出くわしたことは無かった。だからと言って平気なわけでもなく、時間も時間であり、やけにうすら寒くなっていた。どうやら話をいろいろ聞くと、彼の命に別状は無く暴力的にもなっていないと言うことだが、やはり心配である。

・・・意を決した。

「わかりました。おそらく大丈夫だとは思いますが、私が伺うことで奥様も安心なさるのであれば、今からご自宅へ向かいます。」

聞くと、彼の自宅は私の家から車で通常30分くらいの場所。今の時間帯であれば身支度の時間を考えても20~30分くらいで到着できるだろう。すばやく着替えを終え携帯を片手に家を出ようとした。

(いや、まてまて。塩だ。念のために持って行かな。)

以前も触れたが、私は一切料理をしない為、調味料の類(たぐい)もあったりなかったりと、ダメ男満載の生活をしている。台所を散々探して見たものの、やはり自宅に塩は無かった。

(まぁいい、途中のコンビニで買えばいいさ・・・)

 

自宅マンションを降り、マイカーへと急ぎ足で歩を進めたが、車の前に来てギョッとした。

ボンネットからフロントガラス、そして車の屋根にかけて、ちょうど真ん中あたりに『猫の足跡』がついていたのだ。

何の前触れなのか分からないが気持ちの良いものではない。ここ数年同じマンションに住んでいるが、このようなことは初めてだった。

正直、車に乗るのに躊躇(ちゅうちょ)したが、現場に急がないといけない。このとき妙な正義感のようなものがムクムクと心の中で大きくなっていたのかもしれない。

幸い車には別段異常は無く、このような話にありがちな『ブレーキが利かない』なんてことも無いことを確認し、猫の足跡はワイパーで消しつつ、近所のコンビニエンスストアに寄ったのだが・・・

(しお、しお、しお・・・無い。塩が無い。売ってない。これは予想外だ・・・)

慌てふためいた私が手にしたのは、

 

『味塩コショウ』

 

であった。

(なんか余計なものも入っているけど、この際、塩が入っていれば何でも良いわっ!)

さすがに味の素さんの商品『アジシオ』は違うだろうと言う判断はできていたが、その時私の脳みそには、近くに24時間営業のスーパーがあったことを思い出す余裕は無かった。

 

数十分後、時間にして午前2時過ぎ頃、目的地の駐車場に到着した。真っ盛りの時間に現場へついてしまったことに不安を覚えたが、それでも意味不明な正義感がまだあったので、塩(味塩コショウ)をズボンのポケットに入れて急ぎマンションへと向かった。

あらかじめ何分後くらいに到着すると伝えていたからなのか、教えられた番号のマンションの一室に着くと、奥様が玄関前ですでに待っていてくださった。

ありきたりな初対面の大人の挨拶を、丑三つ時に早々と終わらせ、ご主人の居るリビングへ案内してもらう。

 

「ここが先ほど主人が指を指していた廊下です。」

(・・・勘弁してください。)

 

「あれが先ほどお話したスーツです。」

(ゴミ袋に投げ込まれて廊下に放置されている・・・)

 

「こちらが先ほどお話した子供部屋です。」

(・・・いや、だから見せられてもわからんし・・・鬼太郎みたいに「妖気だ!」なんつって髪の毛がおっ立ったら、新たな自分の能力発見にびっくりだわ・・・)

 

「主人はつい先ほどから眠ったようです。」

リビングにたどり着き見ると、子供たちと一緒にすやすやと寝ている○○が居た。

念のために寝息と脈拍、ついでに飲んだと思われるお酒の缶はたった一缶のみであること、もしかして何か薬のようなものを服用していたのかを確認するも・・・不審な点は一切無かった。

子供たちと静かに寝ているところを起こしたくは無いので、例の廊下へ移動して、奥様とお話をすることにした。そして再度、先ほどあった彼の異常な一連の行動を聞きなおし、特に彼の体に異常は見られないこと、落ち着いて寝ているので起こす必要はないであろうこと、救急車も呼ぶ必要はないであろうこと、私はエキソシストではないことを、落ち着いた口調で諭すようにお話した。

奥様も徐々に落ち着いてきているのか、納得し安心したようであり、私もあまり長居したくは無かったため、30分ほど滞在した後に帰宅することとした。別れ際に奥様と電話番号を交換し、「もしもまた何かあれば連絡するように」と伝え、特に何事も無く彼のマンションから出ることができたことに一安心し、駐車場の自分の車の前までたどり着いた。

(彼には今日俺が来たことは伏せたほうがよいかもな・・・)

ふとそう思い、「彼が自分から尋ねない限り、奥様からは今日私が夜遅くに伺ったことを言わないように」と伝えるため、先ほど教えてもらった奥様の携帯に電話をかけた。

 

呼び出し音が鳴る。

とぅるる、とぅるる・・・

不意に雑音が入った。

「ザザー、ザザー、う、うう、ザザー、ザザー、ううう、ザザー、ザザー」

うめくような男性の声が雑音に紛れ込んでいる。

あわてて耳から携帯電話を離し、今掛けている電話番号を確認する・・・やはり先ほど聞いた奥様の電話番号である。

電波の状況によって相手の声が聞き難くなることは、もちろん今までも経験したことはあるが、こんな雑音とうめき声が混ざったことは一切無い。初体験である。

(いや、もうほんとに勘弁してください・・・)

一度電話を切り、意を決してもう一度かけなおした。

ところが今回はワンコールで奥様の「もしもし」というクリアな声が聞こえてきた。

数秒前に電話を掛けた旨を話したが、奥様が言うには、今話している電話の呼び出し音しか鳴っていないと。携帯をずっと持っていたから間違いないと。

ミジンコレベルの心臓を持つ私は急ぎ用件を伝え、どこに掛かったのか分からない一つ前の発信履歴をソッコーで削除した。

このとき、私の恐怖心は最高レベルに達していた。

 

(・・・あれ誰よ、俺誰に電話してたのよ・・・し、し、しお、しお、しお、塩~!!!)

 

ポケットに入れてあった塩(味塩コショウ)を取り出し、頭から全身にまんべんなく思いっきり振りかけた。

 

(ほぼ茶色っ!!)

 

振りかかっている肩の状況を見てみると、どうやら“味塩コショウ”はコショウの割合が多いようであり、白みが全く無いのだ。

(『味塩コショウ』じゃなくて、割合からしたらネーミングは『味コショウ塩』だろ!!)

意味不明なところに怒りを覚えつつ、更に塩(味塩コショウ)振りかけまくった。

おそらく『味塩コショウ』を自分自身に振りかける人間は人類史上私が初めてであろうと片隅で思いつつ、車に乗り込んだ。

(俺、今逆に美味(びみ)な状態なのか?うまそうなのかコノヤロー!!)

「うぉー」と叫びながら車を運転する。足元も視界に入れたくない。誰かが下からこちらをのぞきこんでいる気がするからだ。そんなものを目にしたら、完全に詰みである。

 

自宅に到着したのは夜中の3時過ぎ、ドアを開ける前にもう一度まんべんなく全身に塩(味塩コショウ)を振る。

結局恐ろしくて鏡すら見ることもできず、眠ることもできず、そのまま夜が明け、次の日の仕事に行くことになったのだった。

 

 

 

・・・その後、特に自分の身に何か異変があったわけでもなく、彼を含めた家族にも特に問題が起こることは無かった。

 

唯一変化があったとすれば、私の台所に『味塩コショウ』が無駄に2本並んだことくらいだろう。相変わらず塩はない。

 

(宮古島小ネタ情報は次回以降に発信予定。乞うご期待!!)

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