とある日常 7

純情な感情が空回りしている今日この頃の私ではあるが、皆様はいかがお過ごしだろうか。

さて、不審者になってしまったあの年のあの月こんなこともあった。(※「とある日常1」参照)

 

独身貴族を謳歌している(涙は見せずに)私にとって、夜飯を何にするのかはいつも悩みの種である。

コンビニ、ホカホカな弁当屋、カレー屋、ラーメン屋などをローテーションするという、到底、医療従事者としては褒められたものではない食生活を送っているのだが、その日は仕事帰りにとても牛丼を食べたくなっていた。(「自炊しなさい」という声を今は聞かないことにする。)

ドライブスルーを利用して自宅で悠々と食べることが、いつの間にか自分の中の「牛丼ルール」として確立されており、その日もいつも通りの“牛丼大盛りと豚汁”を注文し、受け取り口の前に車を横付けして、携帯を触りながら商品が出てくるのを待っていた。

 

「ドンッ」

 

大きな音ともに車体が揺れた。

驚き思わず顔をあげた視線の先には、同じく驚いて目を丸くさせてこちらを見ている『おじい』の運転する乗用車があった。

自宅近くの牛丼チェーン店は、入り口専用と出口専用とで車の出入りが決められている店舗なのだが、まさかの逆走の結果、停車していた私の車と正面衝突したのである。不可避である。

数秒の間、おじいと目が合っていたが、次の彼の行動に私は更に驚いた。

おじいは車をバックに入れ車同士を離すと、私の車の左横を無理やりすり抜けようと更に逆走しようとしているではないか。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと!」

 

慌てて追おうと外に出ようとするが、運転手席側は受け取り口にぴったりと横付けされているわけで、助手席側から降りようとまごまごとしている間に、おじいの車はすり抜けて行ってしまった。

どうにかこうにかようやく助手席側から外に出ると、私は猛然とダッシュをしておじいの車を追いかけた。(久しぶりに走ったが、カールルイスを彷彿とさせる太ももの上げ具合だったと記憶している。記憶改ざんは得意な方である)

車が逆走しているせいなのか、私の足が神がかり的に速かったせいなのかはわからないが、程なくしておじいの車に追いつき、窓を激しくノックした。

「すみません、先ほど車をあなたに当てられたものですけど。」

怒りがMaxになりながらも、大人として冷静さを保ちながら大きな声で伝えた。

窓が開く。

 

「ごめんよ~、ひもじかったからさ~」

 

・・・通常だと考えられない言い訳である。

「お腹がへったら何をしても構わないのか?」

「仮に日中忙しくて夜まで食事を摂る時間が無かったとしても、それはあなただけの問題であって、こちらが酌(く)むべき言い訳ではないのではないか?」

「という事はあなたがお腹を減らさないために、私があなたの食事を管理していなければならなかったのか?」

「こっちだってまともな食事を最近食べていなくて飽き飽きしているのに…おふくろの飯が恋しいんだよ」

「・・・おかーさーん」

(妄想終了)

・・・しかしながら実はこの一言により、完全に私の怒りは行き場を失った。

沖縄の『おじい』が言い放つ「ひもじかったからさ~」という言力は相手の戦闘力を削ぐのだ(少なくとも私には)。しょーもない言い訳ではあるが、このおじいに対して一連の行動について声を荒らげても意味のない事だと思えてくるのだ。

「あー、もういいよ、いいよ。おじいもいろいろ大変だったんだよ今日は。しかたないよ。」

 

後日車を修理に出し見積もりを受け取る。

あの日、おじいをそのまま返したことに後悔したのは言うまでもない。