とある日常 1

沖縄の冬は最低気温が15℃前後くらいまでしか下がらない。それでもこの温暖湿潤気候に慣れてしまった体には、その気温でさえも不思議に堪(こた)えてくるのである。

これは数年前の12月の話。

仕事が遅くなり、ファストフード店で期間限定のお気に入りセットを買い、ルンルンで(死語)自宅マンションに帰ったのは夜の10:30を過ぎていた。

普段鍵をかけていなかった私は、ドアを勢いよく開けて玄関の電気を点けようとした・・・おかしい。点かない。

(どうした、停電か?ブレーカーが落ちた?いや、玄関の電気を点けただけで落ちるとは思えない。冷静になれ。ご近所さんはどうなっているか確認してみよう・・・・・・点いているな。)

(つまりうちだけだ。つまり電気止められたのだ。つまり30歳台後半にもなり電気を止められたおっさんがここにいるのだぁ!!)

・・・思い当たることがある。急いで郵便受けを数カ月ぶりに開けてみる。バサッと落ちてきた郵便物の中にひときわ目立つ電力会社からの督促状が数枚。

(あぁ、給与振り込み先の銀行が変わったのに、引き落としの手続きをしていなかったわ。大人としてどうよこれ。)

一応、年中無休で電話対応しているらしいので、電力会社に連絡を取ってみる。

「今日中の復旧は無理です。入金が確認でき次第、早くても明朝9:30くらいから送電再開ができます。」

さて、ここまでの文章中に「おかしいな?」と思われた方もおられたかと思う。

①普段自宅の鍵をかけていない。

②普段郵便受けを開けない。

そう、基本的なところで大人失格な私なのである。何があっても文句は言えないのである。

しかーし、自分事には面倒くさがりである私は、立ち直りもかなり早い。

「よし!!諦めよう!!」

(さてと、飯でも食おうか。ん?心なしか暗闇の中一人で食べる食事は、いつもよりも寂しいぞ?気のせいからなのか、しょっぱさがUP。)

ここでかなりの寂しがり屋であることが判明。

(あぁ、この状況で新たな自分発見。こんな面白い状況を人に伝えたいのに携帯の充電が無いじゃないの・・・もう寝る!!)

次の日。

もちろん鳥程度の記憶力しか持たない私は、3歩歩いて寝てしまったら、前日のことは忘れている。

朝のシャワーを欠かせない私は、風呂場に入り水がお湯になるのを待つ。・・・お湯にならない。

(・・・だった。ガスもつかないのか。なるほど。んでどーする?水でいっとく?)

しかしながら、覚悟を決める前に風呂場に入ってしまった私は、滝行をする方々のような崇高な意思を持ち合わせているわけでもなく、全身水をかぶることに自信がなかった。

(取りあえず髪だけ洗っておこう。バサバサしているのは嫌だしな。“ちゃんりんしゃん”(死語)せな。)

そっこーで髪を洗い、急いで風呂場をでる。

お分かりだろうか、“寝起き”という事と“いつもと異なる日常”という事が重なり、ここら辺りから思考停止状態になっていく。

(・・・ドライヤーも使えないことなんて、考えろよ俺!!そして寒い。しっかし髪がベタベタだ。ベタベータだ。どっちでもよいな。どうするどうする?・・・よし、ドライヤーを持って、とっとと職場へ行ってしまえ。)

身支度を数分で終え、ドライヤーを片手にマンションを駆け下り車へ向かう。

(・・・車の鍵忘れた)

家の鍵をかける習慣があるのであればこのようなミスも起こるわけもないのだが、いつものダメな日常生活がここにきて更に私を落とし込む。

「キーケース=家の鍵+車の鍵 ⇒ 家に忘れて外に出る ⇒ オートロックのマンション ⇒ 入れない」

 

想像して頂きたい。おっさんがドライヤーを片手に、マンションのホールで髪をベタベータにしながら、早朝に通る住民を待つため、立ち尽くす姿を。この時私は、半径500m以内では地域No.1の変質者に違いなかった・・・。

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